東京高等裁判所 昭和42年(う)377号 判決 1967年4月17日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
理由
本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官検事河井信太郎の控訴趣意書に、これに対する答弁は弁護人小林哲郎の答弁書に各記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
所論は、原判決が被告人を懲役一年に処し、未決勾留日数の全部を右本刑に算入する旨の言渡をしたのは、労役場留置の執行と競合し、本来算入することができない未決勾留日数までも本刑に算入した点において、法令の適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は到底破棄を免れない旨の主張である。
そこで本件記録を調査してこれを按ずるに、被告人が昭和四一年一二月一二日本件事実につき罪名を傷害罪とする勾留状の執行をうけ、次いで同月一五日右勾留の侭右事実につき暴力行為等処罰に関する法律違反罪として東京地方裁判所に起訴せられ、同四二年一月一九日同裁判所において右罪により懲役一年に処し、未決勾留日数はその全部を右本刑に算入する旨の判決の言渡をうけたこと及びこれより先、被告人は昭和四一年三月三日東京簡易裁判所において傷害罪により罰金八千円に処せられ同月一八日右裁判が確定し、同年一二月二七日から昭和四二年一月一五日まで二〇日間右罰金刑の換刑処分として労役場留置の執行をうけていたことを認めることができる。従って、昭和四一年一二月二七日から同四二年一月一五日までの未決勾留は、右罰金刑の換刑処分たる労役場留置の執行と競合したものであり、結局、本件において本刑に算入し得る未決勾留日数は、前記勾留状の執行日である昭和四一年一二月一二日から右労役場留置の執行開始日の前日である同月二六日までの一五日間、及び右労役場留置の執行終了日の翌日である昭和四二年一月一六日から原判決言渡日の前日である同月一八日までの三日間の通算一八日間である。しかるに、原審が未決勾留日数はその全部を右本刑に算入する旨言い渡したのは、右労役場留置の執行と競合した日数をも含めて全部即ち三八日間を本刑に算入したものであると解するの外ないから、原判決には刑法第二一条の適用を誤った違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。それゆえ、検察官の論旨は理由がある。
よって、刑事訴訟法第三九条第一項、第三八〇条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により、更に被告事件について判決する。
原判決の確定した罪となるべき事実に法令を適用すると、被告人の原判示所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条ノ三前段に該当するところ、被告人には原判示の累犯となるべき前科があるので同法第五九条、第五六条、第五七条により累犯加重をした刑期範囲内において被告人を懲役一年に処し、原審及び当審における訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 飯田一郎 判事 吉川由己夫 酒井雄介)